姿勢と健康
姿勢って何?
姿勢と言う言葉は私たちが日常に何の意識もなく使っています。
姿勢を字から見ると『姿勢』すなわち、姿(すがた)の勢(いきおい)です。
つまり見た目から感じられる勢いと言うように解釈できるのですが、これは目の前にいる人を見た(観察した)時に、印象として勢いがあるか無いか、と言うような感じになるでしょう。
例えば背筋をピンと伸ばした状態と、背中を丸めた状態とでは、やはり前者の方が元気そうに見えます。
この〝元気〟というのは言い換えると〝勢〟つまりパワーです。
見た目だけで健康状態の全てを判断する事はできませんが、少なくとも背中を丸めた、いわゆる猫背の姿勢と、ピンと背筋を伸ばした姿勢では、どちらが健康的に見えるのかと言う事ですね。
外見と姿勢について
下腹ぽっこり
多くの女性が気にする〝下腹ぽっこり〟の事に少し触れて見ましょう。
通常下腹に脂肪が付くと、見た目が肥っていなくても横からのシルエットはあまり良くありません。
そこでこの〝下腹ぽっこり〟を気にする方は、トレーニングなどで脂肪を落とそうと努力します。
現に当方のトレーニング施設で加圧トレーニングをされる方に、どこを改善したいかを確認すると、〝下腹ぽっこり〟の改善メニューを希望されるのが大半です。
でもこの〝下腹ぽっこり〟に関しては、いくら腹筋を強化しても思うような改善結果は表れにくいのです。
ではどうすれば良いか。
それは骨盤の傾きを中心として、体全体の姿勢を正しい状態にする必要があるのです。
若さと姿勢
老化とともに姿勢は崩れて行きます。
これはやむを得ない事で、足腰の弱りと共に、加齢によって背骨を支える筋肉が弱り、生理的に健康な背骨のカーブが崩れると共に、股関節や膝関節、肩の関節などの場所が本来の位置からずれて行く事で、ちょうど進化を逆行するような、オランウータンやゴリラの様に、重力に対して楽な姿勢に変化して行こうとします。
老人特有の姿勢を想像して見て下さい。
膝は伸びず、腰は曲がり、顎が上がってヨボヨボ歩いていると言うのが典型的な老人像ですね。
もし何の運動もトレーニングもせずに、ただ老化するのを許していると、私たちの将来はそんなイメージに重なって来ます。
美人と姿勢
通常は美人と言うと先ず顔の良しあしと言った事が中心になるのが普通です。
また女性にダイエットが重視されるのは、どちらかと言えば肥えている事が美しくない事の基準となっているからでしょう。
顔の良しあしや肥えている事や痩せている事が美人かそうでないかの基準とされることは判りますが、あまり姿勢の良しあしが美人の基準として取りざたされる事は少ないようです。
でも少し離れて全身を眺めた時は、姿勢の良しあしが他人に与える印象を大きく左右すると考えられます。
姿勢美人と言う考え方
いくら顔がきれいでスリムであっても、姿勢が悪いとそれらの美点がスポイルされてしまいます。
逆に顔が普通で、多少ポッチャリしていたとしても、姿勢がきれいであれば他人から見た印象はとても良いものとなります。
これは背骨だけではなく、よく言われるO脚やX脚などにも言える事で、本来まっすぐであるはずの体のパーツが、一部歪んでいたりすると全体的な印象を低下させてしまうものです。
そこで出てくるのが〝姿勢美人〟と言う考え方です。
ある国で美人とされる顔が、国が変わると美人の基準から外れる事は良く知られています。
痩せている事や肥えている事も、今となっては好みの問題となりつつあります。
しかし姿勢に関しては健康と直結している点からも、良い姿勢の基準がそのまま〝姿勢美人〟の基準になるものと考えられます。
町を歩くと、整骨院や整体屋さんなどで、〝骨盤矯正(調整)〟と言う言葉が看板に書かれています。
骨盤自体は脊柱の土台をなすものなので、歪んでいる事が良くないのは間違いありません。
しかし骨盤の歪みをどう定義するのか、また骨盤を支える股関節、膝関節や、足関節と骨盤の関係をどう評価するのかが明確でないと骨盤の状態だけを云々してもほとんど意味を持ちません。
そればかりか、全体のバランスを考えない骨盤矯正は体のバランスを崩すことさえ考えられると共に、あらたな痛みの原因となり得る事も考えなければならないのです。
こうなると美人を創るどころか、体を壊すきっかけを作っている事になりかねません。
健康と姿勢
姿勢は健康状態を反映する
今度は少し角度を変えて、姿勢と健康状態を考えて見ましょう。
例えば何らかの体調不良があった時、私たちは良い姿勢を維持する事が困難になります。
例えば腹痛なら、お腹を引っ込めて背中を丸めるような姿勢になります。
腰痛なら、少しでも痛みが楽に成る様な位置を求めて、色々と体を動かして見て姿勢を色々と変えてみます。
このように、体のどこかに異常があると、背筋をピンと伸ばした良い姿勢を維持するのが難しくなってきます。
このように、ある意味で姿勢は体の状態を反映しているとも考えられるのです。
自律神経の働き
「自律神経系」は循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、および代謝のような不随意な機能をコントロールしています。
また自律神経系はホルモンによる調節機構である内分泌系と協調しながら、温度や湿度などの環境の変化に対して生理的な機能を調節して適応するホメオスタシス(恒常性保持機能)の維持に貢献しています。
姿勢は自律神経に影響を与える
図でも判るように、自律神経は脊柱の中を走る脊髄神経から分岐して内臓に分布し、これらをコントロールしています。
従って脊柱のカーブに異常があると、中枢神経である脊髄神経と共に、自律神経も何らかの影響を受ける事になります。
例えば脊柱のカーブに何らかの異常があると、その異常によって影響を受けた神経が支配する臓器にもその影響が及ぶと考えられます。
逆に不自然な姿勢から内臓などに影響が及んでいた場合、姿勢を改善する事でその不調が改善される事も十分考えられる訳です。
また猫背などの姿勢は肺や心臓を圧迫すると共に、呼吸に制限を与え、十分な酸素の取り込みがしにくくなります。
このように姿勢が直接的にも間接的にも健康に大きな影響を与えている事が理解できます。
痛みと姿勢
腰が痛い、膝が痛い、または肩が痛い、首が痛いなど、あちこちに痛みを抱える方は沢山おられます。
もちろんそれがスポーツ外傷や交通事故などの様に、外傷性の痛みであれば適切な処置を行う事で、痛みを楽にしたり、また治癒を早める事は可能です。
しかし年齢とともに、特にハッキリした原因も無くあちこちに痛みが出て来る事で苦しんでいる方が大変多いのも事実です。
例えば五十肩などと言われる、肩の周囲に痛みや動きにくさが起こる事はとてもよく知られています。
或いは女性に多いと言われる膝の痛みなども年齢とともに現れて来る事が知られています。
そしてこれらの痛みを抱える人たちは、整形外科や整骨院、鍼灸院などに通院して治療を受けたり、あるいはテレビのコマーシャルにつられてヒ○ル○ンサンとか、グ○コ○ミンとかのサプリを飲んでみたり、あるいは運動不足だからと言ってウォーキングやジム通いを始めたり、あるいは年のせいだと諦めたりする訳です。
どれもそれなりに効果はあるのでしょうが、例えば治療と言う選択は外傷性の症状には有効であっても、年齢とともに現れる多くの痛みに対しては、対症療法としてやや有効と言う他は劇的な改善の期待はあまり出来ません。
またサプリを服用する事についても、痛みだけを取り上げて考えるのであれば、いわゆる鎮痛剤を飲む方が直接的に効果があり、確かに有効だと思われます。
しかし多くの方の「痛み止めに頼るのは嫌だが、なんとかこの痛みを楽にしたい」と言う気持ちに付け込むようにこれらのサプリが売れている様な気がします。
しかし年齢とともに体のあちこちに痛みが現れる事については、単に老化現象(加齢性の変化)だけを原因にしてしまう事には大きな疑問が残ります?
つまり、現代の医療の考え方には、長年に渡って使いっぱなしで放置された姿勢の狂いや歪みが、腰や、膝や、肩や首などの痛みを生んでいるのではないか、と言う考え方が含まれていなかったのではないかと言う事です。
従っていくら治療を受けてもまた再発する。
いくらサプリを飲んでも最初は楽になったような気がするだけで、結局あんまり変わっていない。
いくらトレーニングをしても、確かに足腰は強くなったのだけど痛みそのものはあまり変わっていない。
と言う様な場合には、姿勢の問題と根本から向き合わない限り改善する可能性は無いように思えます。
理想的な治療、そしてトレーニング
私は30年余りプロの治療家として、また武道の指導者として、そしてトレーナーとして歩んで来ました。
関わってきた方々の年齢層は、10代の運動選手から90代の高齢の方まで実に様々でした。
そこで得た結論は、『コンディショニング(予防or治療)⇒トレーニング』は一貫して行われるべきであると言う事でした。
30年前と今では治療法もトレーニング法も格段の進歩を遂げていて、まさに隔世の感があるのですが、この『コンディショニング(予防or治療)⇒トレーニング』と言う考え方はまだ日本では殆ど発達していません。
しかし現実には、特に中高年層の現実を見たときに私を含めて多くの方々が、体の各所に痛みや機能不全を抱えて苦しんでいます。
これらの原因の多くは、筋肉の弱化、筋肉や関節の不使用、偏った運動(特にゴルフやテニスなど)や歪んだ姿勢などから来ています。
また定年を迎えて、夢に見たゴルフ三昧、テニス三昧に明け暮れる方も多いようですが、これも度が過ぎてあちこちの関節に痛みを抱える結果を生んでいます。
また腰痛や肩こりを感じたことが無いという方ももちろんおいでですが、それがメンテナンスの結果としてそうなのであれば良いのですが、普段全く運動もせず、漫然と生活していてそうだとすれば、それは症状が表に出ていないだけであり、筋肉の退化(萎縮)や姿勢の歪み、関節の可動制限などはいずれ出てくると考えられます。
これは特に生活環境の変化などにより、日常的な運動量の減少や、高齢化などの影響からやむを得ない現象と言えます。
一定の年齢になれば誰でも例外なくQOL(生活の質)は低下して行くのです。
QOLを低下させない、いやQOLを今より向上させる。
この為の努力こそが、中高年者の快適な生活の最優先事項だと考えています。
健康の為にジョギングやウォーキングに励む。これも大切ですが自己流では逆に体を壊す原因となります。
筋力低下を防ぐためにジムに通って筋トレに励む。これもオーケーですが、フォームや重量を間違えば結果的に筋力がついても体を壊すきっかけとなります。
要するに正しい姿勢、良い姿勢を取戻し維持する事が出来なければ、いつかどこかで体に破綻が起こる可能性が大きくなって来るのです。